
殉職した自衛官の弔いを政争の道具にしないでほしい。
4月21日、大分県の日出生台演習場で痛ましい事故が起きた。
陸上自衛隊西部方面戦車隊の10式戦車が実弾射撃訓練中に砲弾が破裂し搭乗していた隊員4人が死傷。
浜辺健太郎1曹(45)、高山新吾2曹(31)ら3人が命を落とした。
残る1人も重傷を負っている。
4月26日、玖珠駐屯地で非公開の葬送式が営まれた。
小泉進次郎防衛大臣が参列し、弔辞を述べ、献花を行った。荒井正芳陸上幕僚長も「痛恨の極み」と弔辞で語っている。約1時間にわたる厳粛な式だった。
ところがこの葬送式をめぐって奇妙な批判が巻き起こる。中道改革連合の米山隆一前衆院議員がXに投稿したのだ。
「特段の公務がないにも関わらず、自衛隊トップである総理大臣が出席しないのは、私には理解できません」と。
高市早苗首相は同日、公邸からXで哀悼の意を表明していた。「内閣総理大臣として、衷心より哀悼の誠を捧げます」と。しかし米山氏は首相が物理的に現地へ足を運ばなかったことが許せなかったらしい。
防衛大臣の参列こそが「慣例」だという事実
はっきり言いたい。
米山氏のこの批判は無知から来ている。
自衛隊の殉職隊員に対する葬送式は所管大臣である防衛大臣が参列するのが慣例だ。個別の事故に伴う駐屯地での葬送式に、総理大臣が必ず出席するという決まりも前例の積み重ねもそもそも存在しない。
直近の事例を振り返ればすぐわかる。2024年4月、海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が伊豆諸島沖で衝突・墜落し、隊員8人が亡くなった。
同年6月に行われた葬送式には、当時の木原稔防衛大臣が参列した。岸田文雄首相は参列していない。8人が殉職した重大事故であってもだ。
この時米山氏は岸田首相を批判しただろうか。わたしの記憶にはない。ネット上でも同様の指摘が相次いでいる。
なぜ今回だけ騒ぐのか?
答えはあまりにもわかりやすい。批判したい相手が高市早苗首相だから。
もちろん過去には首相が個別の葬送式に出席した例もある。2007年安倍晋三首相が航空自衛隊殉職隊員の葬送式に参列している。
岸田首相も2023年、陸自ヘリ事故で亡くなった10人の葬送式には足を運んだ。ただし、すべての殉職事案に首相が参列してきたわけではなくこれは例外的な対応だった。
防衛大臣が参列する。
それが通常の政府対応であり確立された慣例。
この基本的な事実を知らないまま 「理解できません」と公の場で発信してしまう。国政にかかわった人物として、ちょっと恥ずかしくないだろうか。
人の死を「政権叩き」に利用する醜さ
わたしが何よりやりきれないのは亡くなった隊員たちの存在が「高市批判」の材料にされてしまったことだ。
訓練中に命を落とした3人の自衛官がいる。重傷を負いいまも苦しんでいる隊員がいる。悲しみに暮れるご遺族がいる。
非公開で静かに営まれた葬送式の場を、なぜ政治的なパフォーマンスの舞台にしてしまえるのか。
ネット上では鋭い反応が続出した。
「防衛大臣が参列しているのに何が問題なの」「首相が行ったら行ったで警備の無駄って叩くくせに」「自衛隊を普段批判的に語る人が、こんな時だけ”自衛隊トップ”を持ち出す違和感がすごい」。どれも的を射ている。
米山氏は新潟県知事を務め東大医学部卒の医師であり弁護士でもある。経歴だけを見ればエリート中のエリート。
それなのに基本的な行政の慣例すら調べずに感情的な投稿をしてしまう。ここにこの人の政治家としての根本的な問題がにじみ出ている。
「勿論、公務の優先順位はあります。全てに出る必要があると言う事ではありません」と前置きしておきながら結局は「理解できません」と断じる。
予防線を張ったつもりだろうけれど、前提となる知識が間違っているのだから予防線もなにもない。むしろ、「わかっています」風の前置きがかえって無知を際立たせてしまった。
高市首相が参列していれば、それはそれで手厚い対応として評価されたかもしれない。
けれど参列しなかったことが「問題」かと問われれば、慣例に照らして問題ではない。
防衛省・自衛隊を直接所管する防衛大臣が現地に赴き弔辞を述べ献花をしている。政府としての弔意はしっかり示されていた。
思い出してほしい。
首相が現地入りすれば、大規模な警備態勢が必要になる。
非公開の静かな式が政治的なセレモニーに様変わりしてしまうおそれだってある。
ご遺族の心情を最優先に考えれば、所管大臣が寄り添うかたちこそが望ましいという判断も十分にありえる。
本当に隊員の死を悼むならまず慣例を正しく理解する。そのうえで冷静に論じる。
それが国政に携わった者の最低限の責任ではないか。
事実も確認せず慣例も知らず、ただ「理解できません」と呟く。その軽率な一言が、命をかけた人たちへの弔いの場に泥を塗ってしまったことを米山氏にはどうか自覚してほしい。
わたしたちが忘れてはいけないのは政治家の発信力の話ではない。
日本を守るために訓練に臨み不慮の事故で命を落とした3人の自衛官がいたというただそれだけの重い事実だ。



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