
アメリカの現職市長が中国のスパイだった。
この一報を目にしたとき背筋がぞっとした。
5月11日、米司法省が公表した事実はまるで映画のような話。
カリフォルニア州アルケイディア市の市長アイリーン・ワン容疑者(58)が中国政府の外国工作員として活動していたことを認め司法取引に合意したという。
アルケイディア市はロサンゼルス近郊に位置し中国系市民が多く暮らすまちだ。
ワン容疑者は2022年に市議会議員に当選し2026年2月には持ち回りで市長に就任していた。
つまり、工作活動のあとに選挙で当選し行政のトップにまで上り詰めていたことになる。
ぞっとするどころではない。
「リーダー、ありがとうございます」その忠誠の相手は中国当局だった
司法文書によればワン容疑者は2020年後半から2022年にかけて中国政府当局者の「指示と統制下」で活動していた。
具体的な手口はこうだ。
「USニュース・センター」というあたかも地元の報道機関であるかのようなウェブサイトを運営。
中国寄りの記事を掲載するよう当局から指示を受け忠実にそれを実行していた。
2021年6月には当時の中国総領事がロサンゼルス・タイムズに寄稿した「新疆ウイグル自治区の集団殺害や強制労働はない」とする主張文を、中国政府関係者から受け取り、即座に自分のサイトに転載。
ウイグル族への深刻な人権侵害に反論する内容を何食わぬ顔で拡散していたわけだ。
さらに驚くのは記事のアクセス数を中国当局に報告し、褒められると「リーダー、ありがとうございます」とやりとりしていたこと。
完全に中国共産党の手先として機能していた姿がそこにある。
ワン容疑者は2026年3月末に容疑を認め司法取引に応じた。
有罪となれば最長で禁錮10年。
そして5月11日市長と市議を辞職した。
FBIのパテル長官は「アメリカ国内で中国政府のプロパガンダを拡散し、指示に基づいて活動した」と厳しく非難。
「同様の影響力工作を根絶する」と強い決意を示している。
ここでわたしはどうしても考えてしまう。
スパイに対して厳しい法制度をもつアメリカでさえ現職市長が中国工作員だったという事態が起きた。
ならば、「スパイ天国」と呼ばれて久しいこの日本はいったいどうなっているのだろうかと。
スパイ天国ニッポン いまこそ法整備を急ぐべきとき
日本には外国の工作活動そのものを包括的に取り締まる法律がいまだに存在しない。
特定秘密保護法はあるけれど対象は限定的。
外国のエージェントとして活動すること自体を罰する、アメリカのFARA(外国代理人登録法)のような仕組みがこの国にはないままだ。
戦後80年日本はずっとこの穴をふさがずにきた。
元公安関係者からは繰り返し「日本はスパイが最も活動しやすい先進国」との声が上がっている。
それなのに国会で本格的な議論がなかなか進まなかった。
ただ風向きは変わりつつある。
高市早苗総理は就任以来、スパイ防止法の制定を重要課題として掲げてきた。
2026年3月にはインテリジェンス機能強化のための有識者会議を今夏にも設置すると表明。
自民党と日本維新の会の連立政権合意書にも「スパイ防止関連法制の検討」が明記されている。
この流れを絶対に止めてはいけない。
もちろん慎重な議論は必要だろう。
反対派からは「治安維持法の再来ではないか」という懸念の声もある。
市民の自由や報道の自由との両立は丁寧に設計されなければならない。
けれど、何もしないことのリスクをわたしたちはもっと真剣に考えるべきだと思う。
アルケイディア市の事件はまさにその教訓を突きつけている。
報道機関を装ったサイトで世論を操作し、選挙で当選し、行政権力を手にする。
これがアメリカで現実に起きたことだ。
日本でも同じことが起きていないとだれが断言できるだろう。
政治家だけではない。
メディア、学術機関、企業――あらゆる場所に工作の手は伸びうる。
法の網がなければ仮に工作員を見つけても摘発すらできないのが今の日本の現実。
今回の米国の事件を、対岸の火事にしてはならない。
高市政権が掲げるスパイ防止法の制定にわたしは心から期待している。
日本の主権をわたしたちの暮らしをしっかり守れる法制度を。
この国の未来をつくるのは一人ひとりの危機意識にほかならないのだから。



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