
「ユダヤ人ですよね。いない方がいい」。
公共の電波でこんな言葉が平然と放たれた。
2026年4月10日テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」でのこと。
コメンテーターの玉川徹氏が、米イラン停戦協議に出席予定のジャレッド・クシュナー氏についてこう語った。
「ましてやユダヤ人ですよね。イランとの協議に関してはむしろいない方がいいような人のような気もする」
耳を疑った視聴者は多かったはず。
わたしも朝の情報番組でまさかこんな言葉が飛び出すとは思わなかった。
玉川氏の主張を整理するとこうなる。
クシュナー氏はトランプ大統領の娘婿にすぎず公職に就いていない。
そんな人物が外交交渉の場にいるのはおかしい。
しかも「ユダヤ人」だから、イランとの協議ではマイナスになる。
制度上の疑問はまあ理解できる。なぜ民間人が国家間の協議に同席しているのか。
そこに疑問を呈すること自体は、健全な批判の範囲だと思う。
ただし問題はそこではない。
「ユダヤ人だから交渉の場にいない方がいい」。このひと言がすべてを台無しにした。
ある人の民族的・宗教的な出自を理由に、公の場から排除すべきだと主張する。
これは批判でも疑問提起でもない。紛れもない人種差別。
しかもそれが日本の朝の地上波で堂々と語られたという事実に震える。
「素朴な疑問」では済まされない一線
玉川氏は「本当に素朴な疑問なんですけど」と前置きしていた。
けれど、その「素朴な疑問」の中身はとてつもなく危うい。
クシュナー氏がイスラエル寄りの人物であることは事実だろう。
アブラハム合意を主導し米大使館のエルサレム移転にも関わった。
ネタニヤフ首相との個人的なつながりも広く知られている。
だからこそ 「彼の政策的立場がイランとの交渉にどう影響するか」 を論じるならそれは政治的な分析として成立する。
しかし玉川氏が持ち出したのは政策でも実績でもなかった。
「ユダヤ人である」という属性そのもの。
ここに決定的な違いがある。
「何をしたか」ではなく「何者であるか」で人を排除する論理。
これはまさに、かつてヨーロッパで猛威をふるった反ユダヤ主義の原型ではないか。
しかも、この発言を受けて番組内で即座に訂正や批判がなされた形跡はない。
MCの羽鳥慎一氏がどう対応したか、詳しい情報はまだ限られているけれど少なくとも放送がそのまま続行されたことは確か。
テレビ朝日としてのチェック機能は、まったく働かなかった。
ネット上では瞬く間に批判が広がった。
「右派が同じことを言えばコメンテーター人生が終わるレベル」という指摘は痛烈だけど的を射ている。
1995年の「マルコポーロ事件」を覚えている方もいるだろう。
文藝春秋社の雑誌がホロコースト否定論を掲載しサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)の抗議を受けて即廃刊に追い込まれた。
2021年の東京五輪ではラーメンズ小林賢太郎氏が過去のコントでホロコーストに関するネタを演じていたことが問題視され開会式前日に解任された。
SWCは日本国内の反ユダヤ的な言動に対して過去に何度も厳しい対応を取ってきた実績がある。
今回の発言がすでに英訳されてXなどで拡散されていることを考えると国際的な抗議に発展する可能性は十分にある。
そうなれば玉川氏個人の問題では済まない。
テレビ朝日という放送局の姿勢が問われ番組スポンサーにも波及する。
すでにネット上ではハウス食品やジャパネットといったスポンサー企業への問い合わせを呼びかける動きも出始めている。
繰り返される「やらかし」とテレビ局の甘さ
玉川氏の問題発言は今回が初めてではない。
むしろ、驚くほどの「常習性」がある。
2022年には安倍元総理の国葬について「電通が入っている」と事実無根の発言を行い出勤停止10日間の懲戒処分を受けた。
帯状疱疹ワクチンの保険適用について誤情報を流したこともある。
ウクライナ侵攻の際には「降伏すべき」という持論を展開し猛批判を浴びた。
2025年の参院選では投票率の上昇に対して「知識のない人がSNSに感化されて投票したのでは」と発言し、民主主義の否定だと指摘された。
パターンはいつも同じ。
取材に基づかない憶測と強い予断に基づく断言。
そして騒ぎが大きくなれば謝罪しほとぼりが冷めたら復帰する。
その繰り返しを許してきたのはテレビ朝日にほかならない。
「テレ朝のスタンスを代弁するスピーカーとして使われているだけだ」というネット上の指摘はあながち的外れとも言い切れない。
放送法4条が求める政治的公平性はどこへ行ったのか。
今回の発言はしかし従来の「事実誤認」とは次元が違う。
特定の民族を名指しして「いない方がいい」と公共の電波で述べること。
これは日本のヘイトスピーチ解消法の趣旨にも反するきわめて深刻な問題。
わたしは特定の政党を応援しているわけではないしトランプ政権のすべてを支持しているわけでもない。
クシュナー氏の交渉参加に制度的な疑問があるなら、それはそれとして議論すればいい。
でも「ユダヤ人だから」という理由で人を排除する発言を朝の情報番組で聞かされるのはごめんだ。
折しもバンス副大統領とイラン側の協議は21時間に及んだ末に決裂した。
核開発の完全放棄やホルムズ海峡の問題など深刻な対立点が、浮き彫りになっている。
中東情勢が一段と緊迫するなかで日本のテレビ局が果たすべき役割は、正確な情報と冷静な分析を届けること。
人種差別を垂れ流すことではない。
玉川氏とテレビ朝日がどう対応するのか。
SWCをはじめとする国際的な人権団体がどう動くのか。
そしてわたしたち視聴者はこの発言を「またか」で流していいのか。
自動翻訳で世界中に発言が拡散される時代に
日本の公共放送がこの程度の人権意識で許されるわけがない。
番組スポンサーも放送局もそして視聴者であるわたしたちも
もう見て見ぬふりはできない段階に来ている。



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