
ガソリン価格がじわじわ上がり続けたこの1か月、ようやく少しだけ息がつけるかもしれない。
4月8日、米国とイランが2週間の停戦に合意したというニュースが飛び込んできた。
トランプ大統領が設定した攻撃猶予の期限、米東部時間7日午後8時。
そのわずか1時間前ギリギリの土壇場で成立した合意だった。
パキスタンの仲介のもと10日からは恒久的な紛争解決を目指す協議が始まるという。
世界中がかたずをのんで見守るまさにそんな瞬間。
合意の中身はこうだ。
イランはエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡を一時的に開放する。
その代わり米国とイスラエルによる攻撃は2週間停止される。
イスラエルもこの停戦に同意したとホワイトハウスは発表している。
ところが、ここからが実におもしろい。
米国もイランも互いに「勝利した」と主張している。
トランプ大統領はAFPの電話インタビューで停戦合意を米国にとっての「完全な勝利」だと語った。
一方、イラン国家安全保障最高評議会は声明で「敵は紛れもない歴史的かつ壊滅的な敗北を喫した」「イランは偉大な勝利を収めた」と発表している。
同じ合意について真逆の評価。
これが国際政治のリアルだと思い知らされる。
「完全勝利」の裏側にあるもの
冷静に考えてみたい。米国はこの1か月あまりの交戦で莫大な戦費を費やした。
イランは最高指導者ハメネイ師を含む多数の幹部が殺害され、国土は広範囲に空爆被害を受けている。どちらの側にも深い傷が残っている。
勝者がいるとすれば、それは「これ以上の犠牲が出なかった」ということだけかもしれない。
停戦と終戦はまったくちがう。あくまで2週間の猶予であって、期限が過ぎれば戦闘再開のリスクだって残っている。
イラン側の主張によれば、米国に対して10項目の条件を受け入れさせたという。
制裁の解除やウラン濃縮の継続、ホルムズ海峡のイラン側の管理権など。一方で米国側はこれらを認めたとは明言していない。双方の認識には大きなズレがある。
この食いちがい、2週間後の交渉で埋まるだろうか。正直にいえば、かなり難しいと感じる。
それでも、銃声が止んだことは間違いなく前進だ。戦争は「本当の勝ち負け」より「完全に終わること」が大切――そう思わずにはいられない。
金融市場は停戦合意を歓迎した。原油先物価格は急落し100ドルを割り込んだ。
日経平均株価は前日比2878円高の5万6308円で取引を終え、過去3番目の上げ幅を記録。3月2日以来の水準を回復した。
スーパーで食品の値札を見るたび、ため息をついていたわたしたち。
原油価格の下落は、輸送コストの低下を通じて物価にじわりと効いてくる。
家計にとって、この停戦は決して遠い国の話ではない。
高市総理のイラン首脳電話会談 日本外交の存在感
注目すべきは、高市早苗総理の動きだった。
8日、高市総理はイランのペゼシュキアン大統領と約25分間の電話会談を行った。
米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まって以来、日本とイランの首脳が直接対話するのは、これが初めての機会だった。
高市総理はペゼシュキアン大統領に対し、はっきりと3つのメッセージを伝えている。
まず、米国とイランによる2週間の停戦合意を前向きな動きとして歓迎すること。次に、ホルムズ海峡は「世界の物流の要衝であり国際公共財である」として、日本関係船舶を含むすべての国の船舶の航行安全確保を早期に実現するよう求めたこと。
そしてイランで拘束されていた日本人について先日の保釈にとどまらず完全な形での解決を要請したこと。
記者団に対して高市総理は「最も重要なことは今後ホルムズ海峡の航行の安全確保を含む事態の沈静化が実際に図られること」と述べた。
外交を通じて最終的な合意に早期に至ることへの期待も表明している。
前日7日の参院予算委ではトランプ大統領とペゼシュキアン大統領の双方に「意見が言える」と語り
電話首脳会談に意欲を見せていた。その言葉どおり翌日にはイランとの直接対話を実現させたことになる。
日本は資源のほとんどを海外からの輸入に頼る国だ。ホルムズ海峡が事実上封鎖されたこの1か月あまり、エネルギー安全保障の脆弱さを嫌というほど思い知らされた。
韓国では26隻もの船舶が足止めされる一方、日本やフランスの船舶はイラン側と独自に交渉して通過を果たしたという報道もある。
政府が水面下でどれだけ動いていたのか、表に出てこない努力もあったはず。
前日にはUAEとの首脳電話会談も行っており、高市総理は「引き続き、あらゆるレベルで主体的に取り組みを進めていく」と強調した。
中東情勢に対する日本の関与は、エネルギー確保という生命線に直結するだけに、この積極姿勢はとても心強い。
ただ、わたしが気になるのは、この重大な外交成果がテレビのニュースでどれだけ報じられているかということ。
米イランの停戦自体は大きく取り上げられても、高市総理の首脳外交の具体的な中身まで丁寧に伝えるメディアは、残念ながら多くない。
国民の暮らしに直結する情報こそ、もっと掘り下げて届けてほしい。
2週間という短い停戦期間で何が決まるのか。ホルムズ海峡は本当に安全に開放されるのか。
核開発の問題はどうなるのか。火種はまだくすぶっている。
それでも、きょうこの瞬間、銃声が止まっていることに意味がある。ガソリンスタンドの電光掲示板の数字が少しでも下がる日が来るなら、それはわたしたちの食卓にまでつながる話。
遠い中東の停戦合意が日本の台所のお財布事情と地続きであることをひとりでも多くの人に知ってほしいと思う。




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